
愛媛県
県庁所在地:松山市
愛媛の食は、瀬戸内海の豊かな海産と、山と平地の恵みが織りなす「ハレとケ」の文化が根幹にある。婚礼や棟上げで振る舞われる鯛そうめんは、白波の中を泳ぐ姿煮の鯛と幾重にも重なる素麺で、両家の親族がめでたく対面したことを祝う縁起物である。松山のハレの日には、冷めてもふっくらとした醤油の香ばしさが特徴のしょうゆめしが欠かせず、昭和30年代には駅弁として全国に名を馳せた。夏目漱石が一粒もこぼさぬほど気に入ったと伝えられる松山鮓は、瀬戸内の幸を散りばめた祝いの味として今も地元で親しまれている。
これらの料理に共通するのは、瀬戸内の温暖な気候が育む素材を、人びとの暮らしの節目に結びつけた知恵である。急流で鍛えられた鯛の弾力ある身、瀬戸内の陽光で干した大根、香り高い麦味噌――山と海、そして人の営みが交差する土地だからこそ、食に「祝い」の形が生まれた。
愛媛県の定番名物
愛媛県の名物一覧

太刀魚巻/太刀巻
創業150年の老舗魚屋が1987年に考案した、竹串にらせん状に巻いた太刀魚の炭火焼。各店秘伝のタレが味の決め手となり、宇和島観光の名物として定着した。

鯛めし
来島海峡の急流で育った鯛の弾力ある身を丸ごと炊き込む東予流と、漁船の上で生の切り身をたれごとかける南予流。愛媛県内で食文化が二分する稀有な郷土料理である。

鯛そうめん
婚礼や棟上げで振る舞われる「最強のハレ食」。白波の中を泳ぐように飾った姿煮の鯛と、幾重にも幸せが続く願いを込めた素麺の組み合わせは、両家の親族がめでたく対面したことを祝う縁起物である。

しょうゆめし
室町時代から続く「しょうゆめし」は、松山のハレの日に欠かせない炊き込みご飯。冷めてもふっくらとした醤油の香ばしさが特徴で、昭和30年代には駅弁としても全国に広まった。

じゃこ天
元和元年(1615年)に仙台から招いた蒲鉾職人が宇和島藩初代藩主のために作り出した、小魚を丸ごとすり潰したカルシウム満点の揚げ物。名前は「雑魚(ざこ)」からの転訛か、ほたるじゃこに由来するかで諸説ある。

タルト
ポルトガル伝来の南蛮菓子が、松山藩主の帰郷により柚子を加えた和風スイーツへと変貌した。断面の「の」の字が特徴的なロールケーキ状のお菓子である。

せんざんき
鶏を「千のように斬る」という名の由来や、中国語「軟炸鶏」が訛った説など諸説ある、今治発祥の骨付き鶏の唐揚げ。骨から出る旨味と濃厚な下味が特徴である。

いもたき
大洲市発祥の350年の歴史を持つ鍋料理。藩主・加藤家の時代に「お籠り」の行事で地元の里芋を持ち寄ったことが始まりで、今も秋の河川敷で月見を兼ねて楽しまれる愛媛の中秋の名物である。

今治焼き鳥
串に刺さない鶏皮を鉄板でプレス焼きする、約50年前に考案された今治独自の焼き鳥。せっかちな商売人の気質に合った「素早く提供」が人気の秘密である。

緋の蕪漬/緋のかぶ漬
正岡子規も詠んだ愛媛の伝統漬物。鮮やかな緋色はアントシアニンと酢の化学反応によるもので、かぶの緋色が冴えればその年は良い年になるという縁起物として、松山のおせちに欠かせない。

松山鮓
夏目漱石が一粒もこぼさぬほど気に入った、愛媛・松山のばら寿司。地元では「もぶり鮓」とも呼ばれ、瀬戸内の幸を贅沢に散りばめた祝いの味である。

法楽焼
室町時代の海賊が勝利の宴で味わった「海賊料理」がルーツ。焙烙鍋で旬の魚介を蒸し焼きにする、見た目豪華な今治の名物料理である。

たこ飯
漁船上で獲れたタコをそのままぶつ切りにして炊き込んだのが始まりという、漁師の知恵が詰まった愛媛の郷土料理。春の「木の芽だこ」や梅雨時のタコが特に珍重される。

えび天
えび天は、殻ごとすりつぶしたジャコエビの「ジャリッとした歯触り」が通の嗜みである、愛媛県新居浜から川之江にかけての燧灘の名物練り天。カルシウムたっぷりで子どもからお年寄りまで親しまれてきた。

いぎす豆腐
愛媛県今治市周辺の海岸で7・8月に採れる海藻「いぎす」を、生大豆粉と煮溶かして寒天のように固めた夏の名物。冷や奴のようなひんやりとした舌ざわりが、暑い季節の食欲をそそる。

ふくめん
こんにゃくがそぼろに「覆面」された見た目が鮮やかな、愛媛県宇和島の祝い料理。四季を表す彩りがハレの席を華やかに彩る。

味噌汁(麦味噌)
年貢米の代わりに麦を食べる知恵が生んだ、香り高い麦味噌の味噌汁。はだか麦をふんだんに使った芳醇な甘みが、瀬戸内の家庭を支えてきた。

みかんずし
「蛇口からミカンジュース」という都市伝説が現実化した愛媛ならではの寿司飯。かぼすやみかんの果汁で炊いたごはんは、米酢が希少だった南部地域で生まれた知恵の結晶である。

かんころ
鍋の中で木杓子で練り炊く時の音が名前の由来。「かんころ」という擬音が付いた伊方町の伝統の干し芋菓子である。

さつま
「さつま」の名の由来は島津家の家紋に似た盛り付けからとも、薩摩伝来説とも言われる謎多き愛媛の郷土料理。ぱさぱさした麦飯をおいしく食べるため漁師が舟上で考案した工夫料理である。

いずみや
江戸時代、別子銅山の住友家に倣い庶民が考案した「おから寿司」。豪商の屋号「泉屋」に由来し、現在は愛媛県を代表する郷土料理として親しまれる。

ぼて茶
藩政時代、松山藩主の女房たちが質素倹約のおふれに応じて考案した贅沢なお茶漬け。塩をつけた茶せんで番茶を泡立て、ふわふわの泡が消える前にかきこむ独特の食べ方が特徴である。

きじ肉と切り干し大根の混ぜご飯
国鳥に指定されるほど高貴なキジの肉と、瀬戸内の陽光で干した大根を合わせた混ぜご飯。里山の恵みと海の幸が織りなす、愛媛の伝統的な味である。

ふかの湯ざらし
漁師が売り物にならないサメを酢味噌で酒の肴にしたのが始まり。下ごしらえに手間がかかり朝から夕方までかかる希少な南予の名物料理である。

石花汁
熱した石を投入すると湯気が花のように舞い上がる、今治市大島の石切り場発祥の保温鍋。米のとぎ汁を使う知恵と、職人の賄い食としての歴史が息づく。
カテゴリ
愛媛県の食文化
愛媛の食文化を形作るのは、瀬戸内海に面した複雑な海岸線と、四国山地に連なる山々という地形である。温暖で降水量の少ない気候は、海の幸を豊かにし、同時に麦や里芋、柑橘類の栽培を可能にした。年貢米の代わりに麦を食べる知恵が生んだ麦味噌や、漁船上で獲れたタコをそのまま炊き込んだたこ飯など、山と海の両方からの恵みを組み合わせた料理が特徴的である。
歴史的には、室町時代の海賊文化、松山藩や宇和島藩の藩政、別子銅山の鉱業といった要素が食に深く刻まれている。海賊の勝利の宴がルーツとされる法楽焼、藩主の帰郷により柚子を加えて和風化されたタルト、住友家に倣って庶民が考案したいずみやなど、権力や産業の動きが料理の変容を生んだ。宇和島藩初代藩主のために仙台から招いた蒲鉾職人が作り出したじゃこ天のように、藩政期の人材登用が食文化に新風を吹き込んだ例も見られる。
また、街道や港の発達も忘れられない。急流で育った鯛を丸ごと炊き込む東予流と、漁船の上で生の切り身をたれごとかける南予流という鯛めしの二分は、地域ごとの交通や漁法の違いを反映している。松山市の発展とともに駅弁として広まったしょうゆめしや、商業都市としての気質から生まれた今治焼き鳥の「素早く提供」というスタイルも、愛媛の食が人の移動と商いの歴史と共にあることを示している。
よくある質問
- 愛媛で秋にしか食べられない名物は?
- いもたきが秋の代表である。大洲市発祥の350年の歴史を持つ鍋料理で、今も秋の河川敷で月見を兼ねて楽しまれる。里芋を持ち寄った「お籠り」の行事が始まりとされる。
- 愛媛のお土産で、子どもにも人気のあるものは?
- タルトがおすすめである。断面の「の」の字が特徴的なロールケーキ状のお菓子で、ポルトガル伝来の南蛮菓子が和風化したもの。柚子の香りが爽やかで、老若男女に親しまれている。
- 愛媛で通販やお取り寄せできる名物料理は?
- じゃこ天やえび天が比較的入手しやすい。いずれも小魚を丸ごとすり潰した練り天で、カルシウムが豊富である。えび天は殻ごとすりつぶしたジャコエビの「ジャリッとした歯触り」が通の嗜みとされる。
- 地元の人が日常食としている愛媛の味は?
- 麦味噌の味噌汁が瀬戸内の家庭を支えてきた。年貢米の代わりに麦を食べる知恵が生んだもので、はだか麦をふんだんに使った芳醇な甘みが特徴である。